アイアムアヒーローにまつわるエトセトラ

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 There're counter ZQNs

  [考察一覧] >> 比呂美と紗衣

夢についての考察
[目次 (集合写真左から順) ]

一期は夢    [トップへ]

赤ん坊ZQNに噛まれ半感染状態におちいった比呂美。彼女の意識は同時に半覚醒状態にあり、現実の人物は、すべて奇妙に変形された姿で比呂美の目に映っています。体は起きて活動していても、比呂美の意識は白昼夢のなかにあります。

夢の中で奇妙に変形された姿は、それぞれの人物の特徴・性格がシンボル化されており、比呂美の見ている夢は、あらゆるものが象徴としての意味を持つフロイト的解釈の成り立つ夢であるようです。

本作『アイアムアヒーロー』では、モノローグや過剰に説明的台詞は排され、物語も、ときに大胆に省略されます。読者は、登場人物のわずかな台詞や垣間見せる表情、あるいはさりげなく描かれた背景から、登場人物の性格や潜伏する物語を読み取ることを強制されます。

それが比呂美の夢の中では、さらに変形した姿で描かれているのですから、その意味を読み取るのは至難の業とも言えます。しかし誇張されて比呂美の目に映ったその姿こそ、比呂美の目が、理性でなく直感でとらえたその人物の真の性格を示しているとするならば、逆にその姿から、作者が真に描こうとしたことが見えてくるかもしれません。

下(図1)は最初に比呂美の目が異形の姿として全員の姿をとらえたときの「集合写真」です。


【図1】[7巻76話140-141ページ]

雑誌掲載時には、どれが誰に相当するのかは、この見開きページを見ただけでは見当もつかず、ひとつ前の見開きページの現実の人物の配置(図2)と照らし合わせて、これが伊浦か、これがサンゴかと、推量するしかありませんでした。


【図2】[7巻76話138-139ページ]

本稿では、比呂美の夢に登場した一人一人について、その象徴化された姿の意味を探っていきたいと思います。ただ、主人公英雄の姿の解釈については、現時点では私にはお手上げで、今回はパスさせていただく予定です。
[ 2012/08/26記 (119話現在) ]


伊浦    [トップへ]

モール屋上に「入国」してきた英雄一行にしりとり検査を課したとき、伊浦の心はすでに静かに壊れ始めていました。そして英雄一行を含む屋上の住人たちの中でそれを察したのは、zqn感染していた比呂美ただ一人でした。

感染した比呂美の目に、伊浦はサメのぬいぐるみとして映っています。直接的にはこれは、伊浦の青色のオーバーオールと、サメのぬいぐるみの外見との視覚的類似性から来るものでしょう。

下図左は、googleで「オーバーオール」で画像検索した結果、右は「サメ ぬいぐるみ」の検索結果です(クリックで対応リンクへ)。

オーバーオール画像検索結果 サメのぬいぐるみ画像検索結果

この縮尺で比較すると、両者の視覚的な類似性がよくわかります。また、伊浦の抱えていたボーガンの形が、もしかするとヌイグルミの口の形に反映しているのかもしれません。

一方、視覚的類似性では説明できない点があります。下図の通り、サメの顔は明らかに壊れています。現実のクールな伊浦の表情に反して、なぜ比呂美の心象のサメは壊れてるのでしょうか?


[10巻108話]

本作では複数の登場人物について、ZQN発症の兆候段階から発症の最終段階までが克明に描かれています。タクシー運転手、その乗客のアベック、編集部カズや新人女性漫画家カオリ、そして伊浦です。その発症過程において、皆、一様に感情の抑制の効かない、情動失禁の状態に陥ります。

その中でも、もっとも激しい感情の暴発を見せたのが伊浦でした。

その理由をFAQにおいて私は、伊浦が理性で無理やり抑え込んでいた彼の強い欲求や衝動が、ZQN発症により抑えが利かなくなり一気に噴出したもの、と説明しました。

一つには(おそらくは警察官という)職業訓練により、また一つには元々彼が持っていた抑圧的性格によって、伊浦は崩壊した秩序への不安や恐怖、藪への屈折した愛情と性的衝動、あるいは自己顕示欲、そうしたもろもろの圧力を抑え込んでいました。

また、英雄一行の登場時には、サンゴとの権力闘争の最中にあったことも示されています。

比呂美の心に映った伊浦が壊れていたとするならば、その時すでに、伊浦の心はそうした諸々の 強いストレスにより壊れかけていた、ということなのでしょう。

ではなぜ比呂美は、伊浦の心の破綻を鋭敏に察することができたのでしょうか?ZQNウイルスにより、感染者の脳の機能は大幅に低下するのではなかったでしょうか?実際、比呂美の理性的判断力、周囲の状況の状況の把握力が低下していたのは事実です。

しかしモールに到着する直前、比呂美の状態を物語る重要なシーンがあったことを忘れてはなりません。下図は、荒木の車の後部座席で、英雄の手を握り「だいじょうぶ」とつぶやいたシーンです。


[6巻64話130ページ]

モールが近づくにつれ次第に酷薄の色を濃くしていく車窓の光景や、それに呼応するように荒れていく荒木の言動。不安が高まり、萎縮していく英雄の心を、ここで比呂美は鋭敏に察知し、手を差し伸べます。差し伸べた手は、強い共感力の現れでもあります。

そもそも感染前の比呂美は、決して勘の鋭い女子高生ではありませんでした。紗衣が絶命前、懸命に伝えようとした思いを察することはできませんでした。樹海で逃走中、つい手を放した英雄の純情も察せず、自分を見捨てようとしたのだと勘違いしたのも比呂美です。

英雄の不安を抑えようと手を握るシーンは、ZQN感染により、脳の理性的働きが低下するのに反比例するかのように、比呂美の直観力、特に人の心の動きをとらえる直観力が増していることが伺える描写です。

これがZQN感染者一般に当てはまるのか、比呂美に特有の症状なのかは不明です。

ただ、感染し鋭敏になった比呂美の直観力が、伊浦の異常を見抜いていたことだけは確かなようです。

[ 2012/09/09記 (121話現在) ]


黒沢(準備中)    [トップへ]


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比呂美の夢の中の登場人物は、いずれも極端にデフォルメされた姿で描かれています。その中でも最も現実と乖離した姿に描かれているのが藪です。

他の登場人物の場合は、デフォルメされた部分はむしろ、そのキャラクターの特徴や隠された性格を、誇張した形で描いたものになっています。しかし藪の場合には、藪自身とは異質の要素が混じり込んでいるようです。

実際、雑誌掲載時に図1のコマで初めて見たときには、あまりに藪の姿とかけ離れているため、これが藪を表しているとはとても思えませんでした。単行本で最初に藪がこの姿で登場するのは、3話ほど前の7巻73話87ページですが、これは単行本化時に加筆されたページで、連載時では図1のコマが最初だったからです。

夢の中の藪の特徴としては、
  • a. 巨大な体躯。
  • b. 下品で猥雑な顔。特に鼻毛の生えた鼻と、三列の歯や巨大な舌。
  • c. 眼球周りの異常。縫い閉じられた左目、右側に移植された眼球。
の三点が挙げられます(図3)。


【図3】[7巻76話144ページ]

いずれも実際の藪の容姿とは結びつきません。藪は女性としては平均的、あるいは多少高め程度の身長であり、 また顔だちは整っていて、もちろん目には何の異常も見られません。

また、比呂美との関係という観点からは、もう一つ
  • d. 比呂美の攻撃の対象外となっている。
という特徴が加わります。

目白や伊浦に対しては強烈な攻撃を加えたにも関わらず、藪に対しては、比呂美は一切手も足も出していません。

もちろん比呂美が目白や伊浦を攻撃したのには、彼らが英雄や自分たちに危害を加えようとしたという理由があります。しかし比呂美にとって藪は、「彼氏」と誤認している英雄に対してちょっかいを出してきた「恋敵」であり、理性の抑制の取れた比呂美が、むき出しの敵意を抱いても不思議ではありません。

実際比呂美は、藪の下品な表情に軽い嫌悪の表情を示しています(図3/2コマ目)。しかし藪への態度は終始抑制的であり、のちにはむしろ、藪に対し無防備に身をゆだねています(図4)。


【図4】[第8巻90話153ページ]

こうした(比呂美の目に映った)藪の身体的特徴、比呂美の見せる特別な態度には、どういった理由が隠されているのでしょうか?


巨大な体躯の理由

混濁した意識の中で、比呂美の精神は年齢的に退行しています。第6巻61話に描かれた、実家で巨大なぬいぐるみに襲われる夢のシーンの比呂美の姿からは、比呂美の意識は少女時代、おそらく小学校高学年~中学低学年のあたりにあったようです。

さらに屋上でサンゴらと対峙した図3のシーンでは、比呂美の精神は小学低~中学年の子供時代まで退行が進み、彼女の視界に、屋上は遊び場である公園と映り、英雄のテントは滑り台として映っています。

子供の目線からすれば、周りの大人は、文字通りみな「大きな人」です。子供に退行した比呂美にとって藪が大きな人に見えるのは当然と言えば当然です。しかし、「集合写真」の中で藪が図抜けて大きいのには何か理由があるはずです。

子供にとって、心理的にもっとも大きく見える大人は誰でしょうか?言うまでもなくそれは彼(女)の両親でしょう。

ある日突然、親の身長がそれまで感じていたより小さく見えるようになる、他の大人と同じ尺度で見えるようになるというのは、成長期のある段階で、多くの子供がする経験です。ZQNに感染した比呂美の精神は、その段階の手前にまで退行しているようです。

夢の藪の姿は、61話の実家に登場する巨大なぬいぐるみと、表情以外はほぼ同一です。実家のぬいぐるみが比呂美の親を投影した姿だとすれば、藪の姿は、藪と親のイメージが結合したものにほかなりません。

そしてそれこそが、藪の姿が他の登場人物よりひときわ大きく比呂美の目に映った理由であり、嫌悪を感じつつ、一切攻撃の意思を見せなかった理由なのでしょう。


結びつけたもの

それでは、比呂美の頭の中で藪と親のイメージが結合した理由は何なのでしょうか?

ショッピングモールに到着し初めて藪と出会った比呂美は、タバコをくわえた藪に強い関心を示しました。連載時、私はFAQでこの理由を、比呂美に喫煙癖があるのでは、と推測しました。


【図5】「アイアムアヒーロー」第6巻162ページ

しかしこれは誤った推測でした。

第8巻冒頭、82話の8ページ目。屋上から、比呂美を背負って梯子を降りる藪に対して、夢うつつの比呂美は「ぉかあさん」とつぶやきました。それに対し藪が「あんたの母ちゃんタバコ…」「吸ってたの?」と答えます。

これは、比呂美の中で藪と(母)親のイメージの結合した理由の、大変わかりやすい説明となっています。花沢作品にしては、むしろわかりやす過ぎるほど親切な説明です。こんなにわかりやすい説明が加えられたということは、私のようにタバコのシーンを誤読した読者が多かったのかもしれません。

ここは一切深読みせず、藪と比呂美の母親のイメージの結合の直接の理由は、藪の喫煙癖によるものと受け取るのが正解でしょう。


○○○でかいだろ

次に、比呂美の心象における藪の、鼻と口元の下品さ、猥雑さの理由は何でしょうか?

下の二行は、7巻72話57ページの会話です。

 英雄「うわーーおっさんみたい」
 藪「ぎゃははははっ よく、チンコでかいだろって言われるよ。」

サンゴ達に命令され、泥酔して淫らに英雄に迫る藪を、比呂美は暗闇の中からじっと見つめていました。

作品内で何度も描かれたように、比呂美は男性との接触に対して、極端なほど潔癖です



【図6】[第4巻42話133ページ]

3巻32話185ページ話の、真司からのメールを読む比呂美の「えっちいなぁ」という意味深に思えるセリフも、10巻108話でその文面が明らかになると、むしろ微笑ましいほど子供っぽい反応にほかなりませんでした。

そうした比呂美にとって、酔った藪の痴態は、その中年オヤジ的性格も含めて嫌悪を感じずにはいられないものだったでしょう。そしてそれが比呂美の目に、藪の顔の鼻や口元が、ことさら下品に誇張されて映った理由であると思われます。

ここからは推測ですが、藪と母親のイメージが強固に結びついたのが、唯一喫煙癖によるものだというのは根拠として薄弱かもしれません。もしかすると、比呂美の母親も、何らかの理由で泥酔し男性に迫る痴態を比呂美の前で見せたり、あるいは藪との性格的共通点があったのかもしれません。

もしそうだとすると、それが後述する比呂美の、母親に対する愛憎いりまじった感情の理由になるかもしれません。もちろん作品内にそれを裏付ける描写はありませんので、これは単なる推測です。

手術

最後が最大の難問となります。

心象の藪の、猟奇的とも言える異常な目は何を意味しているのでしょうか?

繰り返しになりますが、藪自身には何ら目の異状は伺えません。9巻101話、峠の蕎麦屋で藪が「よく見えるな。あたし目が悪いんだよ」というシーンがありますが、これを異常な目のイメージと結びつけるのは無理がありそうです。

藪の目に異状がないとすれば、これは藪と結合した母親のイメージからの連想であるべきです。

ここで再び61話、夢の中の実家のシーンを振り返ります。母親の象徴である巨大ぬいぐるみ(現実世界では不動産屋ZQN)を損壊した直後のコマです。



【図6】[第6巻61話75ページ]

自ら壊したぬいぐるみに対し、比呂美は「…手術しないと…」とつぶやきます。

読者はここで軽い違和感を覚えたはずです。相手がぬいぐるみであるなら、出てくる言葉は「修理しなと」や「直さないと」が自然です。しかし出てきたのは「手術」という言葉でした。

実際にそうした描写がされたことはありませんが、比呂美の心の中の最大関心事の一つが、入院中の母親への想いであると考えるのは自然です。そして母親の心象であるぬいぐるみに対して出てきた言葉が「手術」であるならば、それは母親の入院が、内科的な病気ではなく、外科的なものであることの、一つの示唆となります。

さて、ぬいぐるみの手術に取り掛かった比呂美は、なぜか途中から憤怒の表情となり、手術のはずが、いつのまにかぬいぐるみ(不動産屋ZQN)の解体作業を始め、見ていた英雄を慄然とさせます。ぬいぐるみが母親の象徴であるならば、この感情の揺れは、そのまま比呂美の母親に対する複雑な感情を示していることになります。

それは、一つ屋根の下で暮らす母娘の間に生じる、自然な感情を超えているようにも思えます。

藪に話を戻します。

心象の藪の「縫合」された左目の跡。右側に「移植」された眼球。「縫合」や「移植」の跡はまさしく、手術という観念の具象化したものでしょう。これが母親のイメージからの連想であるのなら、母親の入院理由が外科的手術によるものであり、それも何かしら目に関した移植手術であることの、強い示唆となり得ます。

もちろん、左の眼球を右目に移植するなどというナンセンスな手術はあり得ません。それどころか、眼球の移植、というのも現実世界では実現していません。

あるとすれば、眼球に関して実際によく行われる移植手術、角膜移植手術あたりではないでしょうか。

まとめ

  1. 藪の姿には比呂美の母親のイメージが結合している
  2. 藪と母のイメージが結合した理由は両者の喫煙癖
  3. 比呂美は母親に愛憎一体となった感情を持つ
  4. 下品で精力的な鼻や口は藪の中年オヤジ的性格の反映
  5. 母親の入院理由はおそらく眼科的な外科手術

[ 2012/09/02記 (120話現在) ]

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