アイアムアヒーローにまつわるエトセトラ

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 There're counter ZQNs
36頁 << [ストーリー・トップ] >>38頁
 第37話 [スピリッツ2010年No.19号*(4月12日発売号)掲載] *表紙も早狩比呂美
01 [1コマ目(上段)]
カラーページ。前回の続き。靴が脱げ、前のめりに倒れ、目を見開きつつ顔を上げた比呂美。当然真後ろに紗衣が迫っているという意識がある。

[2コマ目(右下)]
銃に抱きつくようにへたり込む英雄。昨日の都心を逃げ回っていた英雄であれば、ただひたすら逃げ去ろう、ゾンビから遠ざかろうとしたか、あるいは戦いを放棄してしまったかもしれない。しかし、すでに比呂美を守ろうという意識を自覚化して持つ英雄は、比呂美とつないでいた手が離れ、とっさに木の陰に隠れつつも、逃げようとはしない。

[3-4コマ目(左下)]
おそるおそる後ろを振り返る英雄(3コマ目)と比呂美(4コマ目)。ただし、英雄の顔が引きつっているのに対し、比呂美の顔はむしろ落ち着いている。

ここまで遭遇したゾンビのほとんどが、ほぼ見境無く人を襲って噛みつき、自身もすんでの所で何度も噛まれそうになってきた英雄には、当然紗衣もすぐに襲ってくるだろう、いや振り返った瞬間にがぶりとやられるのではという恐怖がある。

一方比呂美は、英雄から話は聞かされてはいるものの、まだ一度もゾンビが人を襲うのを目撃していない。唯一見た首つりゾンビには、人を襲おうとするそぶりすらうかがえなかった。まして紗衣は、変わり果てた姿をしているとはいえ、自分のともだちである。

その意識の差が、二人の表情の違いとなって現れている。

02

03


[2頁見開き]
カラー2頁見開きを縦方向の1コマとして使う大胆な構図。

つまづいた状態で後ろを振り向きかける比呂美。その右斜め後ろで、がに股で仁王立ちになり、激しく左右に首を振る紗衣ゾンビ。

紗衣Zの左手は、ボーリングの球を持つように、両目に親指と人差し指を突き刺して加奈子の頭をつかんでいる。はっきり加奈子とわかるように描かれたのはこのコマが最初である。

左下(見開き2頁を縦にして一頁として見たときの左下)に、「圧倒的窮地」の大きな煽り書きがあり、そのすぐ横に、見落としてしまうほど小さな字で

 おそるるなかれ、われ汝とあり
 Fürchte dich nicht, ich bin bei dir


と書き添えられている。

バッハのモテットの題から採られた言葉のようであるが、これは、まさしく紗衣Zの比呂美に対する心情を表した言葉に違いない。作者花沢健吾氏が書いた言葉なのか、編集者が書いたのかは不明。

04 4頁目から通常の白黒に戻る。ちなみに「アイアムアヒーロー」の連載は毎週18頁が基本だが、今週号は冒頭3頁がカラーページである関係で19頁。

[1-2コマ目(上段左右)]
激しく首を振り続ける紗衣Z。比呂美に何かを言いたい、伝えたいが、顔に巻かれた包帯が邪魔をして喋れないというもどかしさ。しかし、包帯を取り外すということには、意識レベルの低下したゾンビ頭では思い至らない。

隣の車両へのドアの開け方もわかなくなり、バンバンと叩いた電車内のサラリーマンZもそうであったように、相手を攻撃するための本能的動作に関しては全開状態になるゾンビも、多少でも思考力の必要なことについては、日常的動作すらままらなくなる。

ただ、これまで登場したゾンビの中で紗衣Zは、てっこZや首つりZ、タクシー運転手Zを超え、おそらく最も意識レベルが高くとどまっているようである。

ゾンビ化後の推定意識レベル

これは、感染の程度や、ウイルスに対する抵抗力の個人差に由来するものかも知れないが、紗衣Zの場合、ゾンビ化前、比呂美にメッセージを伝えたいという強い思いがあったことも推察させる。

[3コマ目(中段)]
手をついたまま紗衣Zを見つめ、「…さ、」「紗衣ちゃん」とつぶやく比呂美。

首吊りZに対したときと同様、その態度に恐怖や怖れはなく、常人に接するときと変わらないごとくである。

[4-5コマ目(下段)]
4コマ目の構図が少し分かりにくいが、紗衣に投げられ、顔を上(前)にして比呂美に向かって飛んでくる加奈子。ぶつけられた比呂美はその理由がわからず、「っ!?」とうめく。

あとのページで分かるように、これは比呂美を攻撃するための行動ではない。言葉を発することの出来ないもどかしさのあまり、加奈子の死体(実際には死んでいない)をぶつけることでメッセージを伝えようとした紗衣の行動である。では、加奈子を投げることで、紗衣の伝えようとしたメッセージとは何だろうか?

05 [1-2コマ目(上段/中段)]
激しく動悸しながらも、「ぐっ!!!」と歯を噛みしめた英雄。逃亡中ずっと銃を抱えて来ながら、初めて本当にそれを使うことを決意した瞬間である。

[3-5コマ目(下段)]
もどかしそうに銃を入れたバッグのダイヤル錠を解錠。ダイヤルの番号は4-6-4-9(よろしく?)。

06 [1-5コマ目]
動揺しつつも自動化した手順で銃を組み立てる英雄。銃を扱う練習を重ねてきたことをうかがわせる。

一方、英雄の順法意識もまた顔をのぞかせる。「何…やってんだ…」「……犯罪だぞ…」。前日からの出来事を振り返れば、すでに法秩序の前提自体崩壊していることも明らかだが、英雄の思考にその柔軟性は無い。

07 [1-2コマ目(上段)]
いかにも重そうな加奈子の体の下敷きから起き上がる比呂美。はっ「!」と紗衣Zの視線に気がつく。

[3コマ目(中段)]
木陰に回り込んでがに股で立つ紗衣Z。

どう見ても美しくないこの立ち姿は、仰向きで四つんばいという極めて不自然な姿勢で樹海を走り抜けてきたこととあわせ、なにかしら股関節の異常を示しているのかもしれない。

また、包帯の間からのぞく鼻の形も崩れているように(ブタ鼻のように)見える。

その姿勢のまま、じっと訴えるように比呂美を見つめる紗衣Z。先ほどまでと違い、もう首は振っていない。投げつけた加奈子から、何かをくみ取って欲しい、そう訴えかけているようである。

見も知らない首吊りZのわずかな所作から、その残された思いをくみ取った比呂美。いまは紗衣Zの目を見つめ返しながら、紗衣Zのこころを読み取ろうとする。

[4コマ目(下段右)]
じっと比呂美を見つめる紗衣Z。ゾンビ化した人間の視線は、往々にして左右の視線が定まらず極度のロンパリ状態となる。紗衣Zも、今回4頁目まではそうであった。ところが、ここでの紗衣は視線がはっきりと定まり、比呂美を直視している。

ゾンビ化した人間特有の、攻撃欲にだけ支配された状態ではなく、正常な状態にはほど遠いにせよ、明らかに人間としての思考・感情を取り戻している状態である。

[5-6コマ目(下段右)]
6コマ目の比呂美の横顔が大変可愛いという話はさて置き、紗衣Zのメッセージの意味をはかるように、あるいは何かしら思い起こすかのように視線を外す比呂美。

ここより比呂美の回想シーンに入るが、この回想は、紗衣と比呂美、そして加奈子との関係、あるいは紗衣Zの伝えようとしたメッセージを読み取る上で、全体のストーリー上も、きわめて重要な回想シーンである。

08 前々日2009年5月2日土曜日の回想シーン。比呂美たちが自然学校に来る前日である。この日が5月2日であることの根拠は12頁目の項で説明。

[1-3コマ目]
鞄を背負っていることから、おそらく朝、登校してきた直後であろう、靴箱の前にしゃがみ、そこにあるはずの自分の運動靴の無いのを知り、眉を曇らせる比呂美。

この状況で人は何を考えるであろうか。可能性として頭に浮かぶのは、

 1. 自分が運動靴をしまい忘れた。
 2. 誰かが間違えて持って行った。
 3. 誰かが盗んだ、もしくは隠した。

の3つであろう。比呂美の頭にもこの三つが浮かんだはずである。

一番そうあって欲しいと願うのは1であろう。誰の心も傷つかない。あるいは2であっても、笑い話ですませることが出来る。

他罰的な思考をするタイプであればまず3を考えるかもしれない。しかしそれは自分が悪意の標的とされていることを意味し、決して愉快な考えではない。だが、もしそれに思いいたる節があれば、人を疑うのもまた人間である。

紗衣のグループにイジメを受けていた比呂美。まず最初に浮かんだのは、やはり3であったかもしれない。

[4コマ目(左下)]
朝のクラスルーム。翌日に迫った自然学校。黒板に書かれた明日の移動スケジュールと、先生の「かなり歩くから運動靴忘れんなよ」の声。

そう、無くなったのは、まさに翌日必要な(おそらく三限目の体育の授業でも必要な)運動靴である。

09 [1コマ目(上段)]
引き続いて教室の光景。比呂美の席は左側1列目の前から4番目。「はやかわ」の比呂美がここに座っていると言うことは、アイウエオ順(または出席番号順)の並びではない。

第33話、加奈子がニガリ入ドクペを飲まされた回で、カーテンにくるまって音楽を聴いていた比呂美の席も、同じ位置である。したがって両エピソードは席替えがされていない程度に近い時期ということになる。ただ、33話の回想シーン時、教室の時計は午後2時半を指しており、自然学校前日のこの日、比呂美は昼までで早退しているので、今回のエピソードより後ということはあり得ない。

後ろ姿で描かれる比呂美。表情はわからないが、クラスメートの喧噪をよそに無言である。去来する思いは、運動靴の行方だろう。

飛び交うセリフの中に、例によりさりげない形で、重要な情報が埋め込まれている。「ブスの方の菊池、入院だってさ」。

1巻を何度も読み返した読者なら、これがゾンビ絡みの事件の伏線であることに疑いを持たないであろう。いやここに至っては、伏線というより、もはや学校の誰かが、ゾンビに噛まれて入院したのだと明示されているようなものである。

ただ、この菊池については、単発の伏線であるより、もう少し前後のつながりがありそうである(後述)。

なお、このコマではっきり描かれている通り、この日の比呂美の長髪は、樹海での比呂美と異なり、ヒモでまとめられている。校則で決められているのか、それとも邪魔にならないようにするためなのか。あるいは自然学校では、夜、リラックスするためにほどいたのかもしれない。

[2-5コマ目(中段/下段)]
体育の授業のため、階段を降りて体育館に向かう比呂美とクラスメート。

3コマ目一番手前右側に、背中側から一部だけ描かれているのがおそらく紗衣の後ろ姿。紗衣の前に、先日ニガリ入ドクターペッパー(ドクタータッパー)を飲まされた加奈子。そして、階段を降りる途中、あるいは階段途中で立ち止まっている比呂美。

ここで重要なことは、比呂美の顔の角度から、はっきりその視線が加奈子の方を向いていること。やはり階段の途中で立ち止まっているのではないだろうか。ただし表情は描かれていない。

角度的には加奈子のすぐ横に紗衣がおり、この構図だけで確実に視線の的が加奈子だとは断定できない。だが、4コマ目で比呂美がはっとして、その視線を紗衣に移動させたように描かれていることから、また、そもそも3コマ目のこの位置に加奈子が描かれている意味を考えれば、やはり比呂美が見つめているのは加奈子、ということになるであろう。

前頁からの流れを受けてこのコマの意味を考えれば、比呂美が、運動靴が他人に隠されたのである場合の犯人として、加奈子を想定していることを示したものと判断できる。

そして比呂美がそういう想定をするということは、以前にも同様のことを加奈子にされたのであろうことが浮かび上がってくる。

加奈子のセリフ「昨日のSステみた?」。もちろん毎週金曜日放映のMステ(ミュージックステーション)のことであろうから、この日は土曜日。

10 [1コマ目(上段右)]
「はあ…」「紗衣ちゃんキレイだな…」「オッパイ大きいし…」

体育館の時計を見上げながら、そう独り言する比呂美。さりげないようでありながら、このつぶやきの持つ意味は大きい。

32話、自然学校の夜の回を読んだ読者は、紗衣こそ、比呂美をハメて深夜の樹海に追い出した意地悪の首謀者であるかのような印象を持ったはずである。

もしかしたら比呂美の靴を隠したのが紗衣、あるいは紗衣の差し金で加奈子が隠したのではないか、そう疑った読者もいるはずである。

ところが比呂美のつぶやきからは、少なくとも比呂美が直接的に紗衣からイジメを受けていたという印象は受けない。自分を直接イジメた相手を、独り言するのに「ちゃん」と呼ぶのは少し変だ。紗衣のグループにイジメを受けていたとしても、少なくとも比呂美は、紗衣自身にイジメられているという自覚はなかったのではないか。。

逆に言えば、自然学校においても、紗衣は比呂美に対して、少なくとも悪意は持っていなかったのではないか。

さて、自分で「目がいいんですよ」と言う比呂美は、見上げた時計の上に何かを見つける。

[2-3コマ目(上段左上)]
体育館の屋上の端に比呂美が見つけたものは、まぎれもない、自分の運動靴であった。

靴が勝手にそんなところにひっかかるはずもない。確実に誰かが、そこに比呂美の靴を放り上げたのである。

[4コマ目(下段)]
悄然と立ちつくし、屋上を見上げる比呂美。

まず、先にあげた3つの可能性のうち、1と2は完全に消えた。誰かが比呂美の靴を隠し、捨てたのである。自分に対するむき出しの悪意。

おそらく比呂美の頭の中に、加奈子の顔が浮かんでいるはずである。

詳しくは後述するが、Google streetviewで確認すると、比呂美の学校の校舎は三階建てであり、体育館も同じ程度の高さである。三階屋上というと、12〜13mくらいの高さであろう。普通の女子高生が靴を投げ上げてなかなか届く高さではない。というより、屋上に向かってものを投げ上げようという発想をそもそもしないだろう。

比呂美のまわりで、それができそうな体格の持ち主として描かれているのは加奈子だけである。ちなみに、加奈子の遠投癖のおかげで、のちに比呂美は樹海で命拾いをすることになる。

もう一つ、立ちつくす比呂美の頭の中に浮かんだのは、明日の自然学校で履いていく運動靴をどうするか、ではないだろうか。実際、翌日、樹海で比呂美の履いていたのは運動靴ではなく通学用のローファーシューズであった。すぐには新しい運動靴を買えない事情が、あったのであろう。

体育館の中には他の女生徒が見え、何人かは館内を走っている。時計の針は11時20分を指しており、これから体育の授業が始まるとすると、3限目なのか4限目なのか、時間だけでは判断が微妙なところである。

11 [1コマ目(上段)]
「じゃあ早退します」と、小雨の中、透明ガサをさし、校門へと歩く比呂美。

追うように、姿は見えないが「お母さんによろしくねー。」という、おそらく担任の声。普通の保護者に対するより、比呂美の母とはもう少し近しい関係かもしれない。

この日は土曜日であるので、授業時間は12時台までの4限であろう。したがって、早退するというからには4限の終わる前と言うことになる。前ページ末の考察とあわせて、比呂美の早退したのは、土曜日正午過ぎ、3限の終わったあと、という可能性が一番高い。なお、検索すると、4限目が12時50分に終わる高校も多い。

さて、このコマの構図であるが、かなり上から比呂美を俯瞰する角度であり、いろいろ構図やアングルの工夫をする作者であるにしても、少し違和感を感じる角度である。

じつはこのアングルは、早退する比呂美を見下ろしている紗衣の視点であることが次のコマで明らかになる。角度的には紗衣の位置が2階か3階か微妙なところで、もしかしたら階段の踊り場なのかもしれない。

[2コマ目(中段)]
校門を出て、横断歩道にさしかかる比呂美。そのずっと後方、校門の前に立つ女子生徒。紗衣である。うっかりすると見落とすほど小さく描かれているので、単行本の縮尺で読む読者は注意が必要だろう。

もちろんこの時、たまたま紗衣が校門に立っていた、ということはあり得ない。教室ではまさに4限目が始まったところである。間違いなく、早退する比呂美を見かけ、追いかけて教室を出てきたのだろう。

Googleマップで確認すると、1コマ目の校門手前の比呂美の位置から 2コマ目の比呂美の立つ位置までの距離は、およそ50m。道路を斜めに横断するともう少し短くなるが、おそらく比呂美は、ちゃんと校門前の横断歩道を渡り、歩道を歩いてきたはず。

一般的に成人男子の歩行速度が時速5km弱、成人女子が4.5km程度であるが、比呂美はかなり小柄な女子高生であり、普通に歩く時には、およそ時速4km前後と推察する。時速4kmで50mを歩くのに要する時間は、約45秒。

つまり紗衣は、2階(もしくは3階)の教室の窓(もしくは階段の踊り場)から、早退する比呂美をたまたま見かけ、すぐに帰り支度をし、鞄を背負い、2階(もしくは3階)から階段を降りてきて靴を履き、校門に出てくるまでを、約45秒という短い時間でこなしたことになる。これは、紗衣に、それだけ急いででも比呂美の後を追いたいという動機付けがあったことを示している。

話が前後するが、実はこの校門の構図から、比呂美の通う高校のモデルとなる女子高が完全に特定できる。一応ここでは高校名は伏せるが、ストリートビューを見れば簡単に判明する。

筆者は、ストリートビューでこの校門を見つけるのに大変苦労した(後述)が、関係者、あるいは在校生がこのコマを見れば、一目瞭然に違いない。

これは、さすがに許可を取ってから漫画に使っているのではないかと思うのだが、どうだろうか?歩道橋や踏切など、公共の施設などであれば、それを漫画内の背景に使おうことに、何の問題もないだろう。

しかし今回は、ヒロイン役の比呂美の通う高校である。他のシーンとは重みが違う。あとあと世間でもネットでも(このサイトおいてもそうであるように)、話題になることが予想される。何らかの許可なり承諾を取っているのではないだろうか。一応本稿は、その前提で書いている。

ただ、校内の写真に関しては、また別の資料を使っているようだ。Googleアースの航空写真で見る限り、例えば校内の建物で、上の1コマ目の校門付近の構図を取れる場所は見当たらない(もし見落としていたら御指摘願う)。

なお、比呂美が渡ろうとしている横断歩道に描かれている「じてんしゃ」のペイントは、Googleアースの2007年12月31日の航空写真では描かれておらず、Googleストリートビューでは、漫画と同様に描かれている。したがってこの地点でロケハンを行ったのは、2008年1月1日以降ということになる。もっとも連載開始が2009年5月であるから、これは当然だろう。

[3コマ目(下段)]
透明ガサの内から、進行方向前方を見る比呂美の視点。ポツポツとカサにはねる雨粒。

「バカ、ドジ、マヌケ」「死ね、オタンコナス…」は、比呂美のセリフにしてはいささか物騒である。これは実は、週刊誌掲載時、コマの左側に「JASRAC申請中」の断り書きがあったとおり、RADWIMPSの「なんちって」という曲の歌詞である。

携帯プレーヤーでかけている同曲の歌詞をそのまま口ずさんでいるわけだ。

もちろん、この歌詞には、このときの比呂美の心情が重ね合わされているだろう。死ねとまでは思っていないだろうが、犯人を恨む気持ちが起こるのは、当然のことだろう。

12 [1-3コマ目(上段)]
比呂美のさすカサに軽くぶつけられた、もう一つの透明ガサ。偶然ぶつかったわけではない。50m差を追いついてきた紗衣のカサである。あるいは声をかけたのに気づかれず、カサを接触させたのだろうか。

思わず謝りながら振り向き、紗衣を見て驚く比呂美。

[4コマ目(中段)]
一方通行一車線の道を、一方通行とは逆方向に並んで歩く比呂美と紗衣。二人の間隔は約1メートル。仲の良い女子高生同士であれば、これは広すぎる間隔である。

「……」無言で歩く比呂美。授業を受けているはずの紗衣がなぜ一緒に歩いているのだろう。あるいは自分のつぶやきを聴かれたのでは、という含羞があるのかもしれない。

[5-6コマ目(下段右)]
イヤフォンをつけたたまま、やや上の空の比呂美。紗衣になにか話しかけられているのに気づき、あわててイヤフォンを外す。

[7-8コマ目(下段中・左)]
「あ、今聴いてる曲?あ、RADWIMPS…です。」同級の紗衣に思わず敬語で答えるところに、二人の微妙な距離感と、比呂美の紗衣に対するほのかな憧れが反映されている。

道路脇の立て看。例により、さりげなく挿入される不穏な情報。「この場所で四月二十八日午前十時五十分頃傷害事件が発生しました」。読み落としさえしなければ、作者の提示するヒントはストレートそのものである。

被害者は、入院した「ブスの方の菊池」ではないか。そして被害者を見舞った女教師もまた感染してしまった。最後には、今この立て看の前を通りかかっている紗衣が、その女教師に噛まれてしまう、という一連の流れを読み取るのは、決して無理筋ではあるまい。

この立て看に記された日時から、この日は4月28日火曜日以降の日付だということがわかる。また当然、自然学校初日の5月3日日曜日よりも前の日付である。9ページ加奈子の「昨日のSステ」のセリフから、この日が土曜日だと言うことも明らかになっており、これでこの日が、自然学校前日の2009年5月2日土曜日だということが確定した。

なお、この時間帯、まだ比呂美とはまったく別の世界で生活している英雄は、朝方てっこに「穴兄弟」について詫びる長文メールを送信したあと、枕を濡らしながら寝ている最中である。

13 [1-4コマ目(上段/中段)]
「他には?」、「他には?」と次々尋ねる紗衣。比呂美の答えるアーティスト名は、『相対性理論』、『9mm』、『andymori』、『かまってちゃん』、『アジカン』そして「古いのも聴くよ」と『はっぴいえんど』、『来生たかお』。

恥ずかしながら最近の音楽に疎い著者は、「古いの」以外はすべて初耳のアーティスト名であった。ただ、この回が掲載された日を含め数日、ツイッターに書き込まれた多くのつぶやきによると、それぞれのアーティストのファンにとって、一般誌スピリッツ掲載の漫画にそのアーティスト名が載ること自体が、かなり驚くべきことであったようだ。

比呂美の音楽好きは、相当マニアックなレベルに達しているようである。

[5コマ目(下段右)]
「…だいたい好きかも。」紗衣のセリフは、やや気のない同意である。実際に「だいたい好き」なのかも知れないが、それよりは比呂美に気持ちを寄せていったセリフと思われる。

「…くるりは?」これは紗衣自身が好きなアーティストであろう。また、比呂美のあげたラインナップから、二人の趣味の一致するアーティストを予想して名を挙げたのかもしれない。

[6コマ目(下段左)]
「あ、もちろん大好き」「へー紗衣ちゃんそーいう音楽聴くんだ?知らなかったぁ」。比呂美の顔は上気し、さきほどの敬語とはうってかわってタメ口である。あこがれだった紗衣と共有する趣味について話すことができ、有頂天気味であろうか。

14 [1-2コマ目(上段右/左)]
「クラスじゃあんま、音楽の話できる人といないから…」と言われ、やや冷静さを取り戻す比呂美。なぜ紗衣が話しかけてきのか、その説明で得心がいったかのように「……そっか。」と答える。

紗衣は本当に「音楽の話できる人」と話をしたかっただけの理由で、授業を勝手に早退し比呂美を追いかけてきたのだろうか。前後のいくつかのエピソードで、紗衣はいつも取り巻きに囲まれているようでいて、実は面従腹背の関係であったことが示されている。

音楽の話はむしろ口実で、彼女の真の動機は心の通う友だちが欲しいというところにあり、そのために、自分の取り巻きのいない状況をねらい、比呂美に接近してきたのではないだろうか。

ここからは余談であるが、モデルとなった女子高校では、ブレザー、ブラウスにリボンが制服となっている。比呂美と紗衣の胸元は、少し寂しいようである。

第33話、加奈子が「みんなどこ行ってたの〜」と教室に戻ってくるシーンで、前の方の女子生徒をルーペで拡大すると、リボンタイをつけているようにもみえる(絵が非常に細かくて、違うかもしれない)。

制服に定められていても、リボンについては、着用自由になっている高校も多いようだ。比呂美も紗衣も、リボンをつけるのはあまりお気に入りでないのかもしれない。

[3コマ目(中段)]
「くるり」についてマニアックな会話で盛り上がる二人。

[4-5コマ目(下段)]
比呂美の左のイヤホンを借りて右耳にさす紗衣。ひょうしに、「トン」と触れる二人の肩。仲の良い女子高生同士であれば、これくらいが普通の距離間隔である。

15 [1-2コマ目(上段)]
イヤフォンの音楽に、笑顔で「いいね」という紗衣。ふたたび紅潮した顔で喜ぶ比呂美。

[3-4コマ目(上段)]
毎週早退する理由を聞かれ、母の見舞いのためだと答える比呂美。翌日までに替わりの運動靴を用意できなかったのは、母の入院が影響しているのだろうか?

比呂美の説明に「ふーん」と返す紗衣。言葉にはしないものの、紗衣の中に、比呂美の境遇への理解と同情が生まれているのだろう。

[5-6コマ目(下段)]
踏切のレールを踏む比呂美のローファーシューズ。翌々日、樹海の中を走り、脱げ、紗衣Zによって拾われる靴である。

「…あの、紗衣…ちゃん」と、言いよどみながら話しかける比呂美。尋ねようとしたのは、あるいは運動靴のことについてであろうか。

しかしそこで二人は、心を雨上がりの虹へと奪われる。

16 [1コマ目(上段)]
踏切に立つ二人。踏切の真向かいに虹が架かる。
「あ…」「虹だ」

この虹は、雨上がりの象徴であると同時に、比呂美にとっては、靴を隠され、暗く沈んでいた心の晴れたことの象徴であり、紗衣にとっては、ようやく心を通わせるともだちを持てたと言うことの象徴であろう。

またこの虹は、紗衣がその生涯で見たおそらく最後の虹となった。

さて、回想シーンの終わりに達したところで、あらためて比呂美の靴を隠した犯人について考察してみよう。

第32話、自然学校での夜、比呂美が深夜の樹海へと追い出された回を読んだ読者は、紗衣や加奈子、ソバージュがグルになって比呂美をはめ、中でも紗衣は、比呂美をはめたリーダー役であった、そういう印象を持ったのではないだろうか。少なくとも筆者はそうであった(またもや作者のミスリードにはめられたわけだ)。

その先入観のまま、今回の回想シーン冒頭の、比呂美が靴を隠された場面を読めば、ああこれは靴を隠したのは紗衣か、あるいは紗衣の差し金で加奈子(デブ)が隠したのだろう、自然に、そう考えてしまう。

ところが、小雨の中、傘を差しながら並んで歩く二人の会話、そしてそこに描かれた紗衣の比呂美に対する心遣いを読み、印象は一変する。

紗衣は、あきらかに比呂美と話をしたくて、教室を抜け出してきた。わざわざ二人だけになる機会を作ったということは、自分の取り巻きのいない状況で話をしたかったにちがいない。比呂美と並んだ紗衣は、共通の話題を見つけようとし、比呂美の家庭環境にも思いをはせている。

紗衣が比呂美と仲良くなりたい、友だちになりたい、それもかなり前からそう考えていたということは、疑いもない。

紗衣の性格にも屈折したところがあり、比呂美に対するイジメに加担した可能性はないでもない。だが仮にそうだとしても、それは「好きな子にちょっと意地悪をしてみたい」というたぐいの心理ゆえであっただろう。

いずれにしろ、体育館の屋上まで靴を投げ上げるのは、紗衣の体格では難しいだろう。

靴を隠し、投げたのは、加奈子の単独犯であり、比呂美は薄々それに気づいている。紗衣は、この日はまだ比呂美の靴を隠した犯人が加奈子であることを知らない。そもそも、この虹の踏切のシーンまでは、比呂美が靴を隠された事件自体を知らない。そこらへんが真相ではないだろうか。

今回の回想シーンで描かれた人間関係を把握した上で、あらためて第32話、自然学校の夜の場面を読み返すと、まったく別の物語が見えてくる。

冒頭、紗衣が「比呂美ちゃん、フケ多いよね〜」と語ったのは、底意地の悪さ故にでた発言ではなく、多少無神経ではあるものの、むしろ親密さをあらわすための軽口だったのではないだろうか。追い打ちをかけた加奈子とソバージュのセリフこそ底意地の悪いものであったが、それに続く紗衣の「比呂美ちゃんバッグからファンデ取って」は、さりげなく話をそらせたようにも思える。

「ね、比呂美ちゃん、空気読もうよ」と比呂美に告げたのも、加奈子やソバージュに味方したわけではなく、むしろ、言葉通り、空気を読んで欲しいという懇願であったのかもしれない。

比呂美に好意を持っているとしても、ここで比呂美の肩を持ち、自分の取り巻きのメンツを潰すわけにはいかない。比呂美と加奈子やソーバジュがケンカになる事態も避けたい。なんとか取り巻きと自分の顔を立てるかたちで比呂美に折れてほしい、そういう懇願だったのではないか。

比呂美を仲間はずれにしたくなくてゲームには誘ったものの、おそらくニガリ入ドクペの時と同様、紗衣のターゲットは、紗衣が嫌っている加奈子だったはずだ。ところがその加奈子の策略により、罰ゲームを引かされてしまったのは比呂美。そもそも加奈子の手口は、自分たちが加奈子をハメた手口そのままであり、そこに紗衣が文句をつけるわけにはいかない。

「ね、比呂美ちゃん、空気読もうよ」のセリフに最も傷ついたのは、比呂美ではなく、紗衣自身であった。

つけくわえると、このジャンケンゲームの時点では、まだ紗衣は、加奈子(デブ)が比呂美の靴を隠したことを知ってなかっただろう。加奈子の悪事を知っていれば、紗衣の態度はもっと違うものであったはずだ。

いつまでも樹海から戻らぬ比呂美を心配する紗衣に、自慢話をするように加奈子が顛末を語りでもしたのではないだろうか。

ここでまた少し余談。このコマの、虹の踏切のモデルとなった踏切は実在し、Google ストリートビューで見ることができる(→ ここ )。前述の校門の位置からは、経路にもよるがおよそ1kmの距離。女子高生がゆっくりしゃべりながら歩けば、20分はかかると思われる。

20分もしゃべりながら歩いたとすれば、二人の会話は、とても漫画に描かれた分量ではおさまらないだろう。ただ、それは作者が、現実の校門から踏切まで二人を歩かせたと想定して描いたという前提での話で、事実は違うようである。おそらく、現場でロケハンしてきた道路の写真を適当に背景として使っただけだと思われる。

まず二人が踏切を渡る方向であるが、西側、つまり学校とは反対方向から渡っていて、ちょっと不自然である。もっともこれは、二人がこの踏切の路線(東急世田谷線)の東側の商店街を通り抜けてきたのだと考えれば説明がつかないこともない。

しかし、校門と踏切の間に描かれたコマの背景、具体的には11ページ下段のコマ、12ページ中段のコマ(以上二つは一車線の逆方向一方通行路)、14ページ中段のコマの3つのコマに描かかれた背景は、近辺をストリートビューで探しまわった範囲では、見当たらない。

といっても、学校からそれほど遠くない範囲でロケハンした写真だと思うのだが、少なくとも校門から虹の踏切へ、回り道せずに行ける経路をストリートビューでしらみつぶしにチェックした範囲では見つけられなかった(もし見つけられたかたは、ぜひご連絡を)。

また、説明は省略するが、15ページから16ページの背景は、二人が自然に歩いたとしてはちょっと繋がりがおかしい。

もう一つ、気象学的にありえないのが、踏切の向こうに掛かる虹の位置である。もう一度ストリートビューでこの踏切の位置を見てもらえば、二人は西側から、真東の空にかかる虹を見ていることになる。

二人がこの踏切にたどり着いたのは、多めに見積もっても午後1時を挟む前後1時間の間であろう。その時間、太陽の位置はほぼ真南。したがって、虹は太陽とは反対の北の方向にかかっているはず。

と、なんだかケチをつけてるみたいだが、もちろんこれはマニアの無意味なこだわりであって、作品の価値と無関係の話である。作品はあくまで架空の世界の話であり、たまたま背景に使った現実世界と、道順や方角が一致している必要はない(でも少し残念)。

余談の余談で恐縮だが、ここで、虹の踏切をストリートビューで発見するまでの経緯を語らせいただく。

最初は、これを自力で見つけるのはまず無理だと思われた。たまたま誰か踏切の近所の人が知らせてくれない限り、まず見つけられないだろう。おそらく都内であることは間違いないだろうが、都内に踏切がいくつあるかしれない。もちろん作者や出版社に問い合わせるのは反則である。

それでもこれくらいのズルはいいだろうと、駄目モトのつもりで、某掲示板で質問してみた。驚いたことに、ほぼ即答で、都電荒川線だという回答が返ってきた。おお、すごい。さすが某掲示板だ。

喜び勇んで、都電荒川線を早稲田駅からたどる。ストリートビューで、一つ一つ踏切をチェックしていく。大阪にいながら、都電荒川線のほとんどの踏切を、色んな角度から見ることができるのだから、すごい時代になったものだ。

だが、見つからない。早稲田から、三ノ輪駅まで、すべての踏切をチェックしても、マンガに一致する光景が無い。そもそも虹の踏切は、比呂美によく似合う、ずいぶんこじんまりした踏切で、都電荒川線の沿線とはちょっと雰囲気が違う。

ガセ情報だった!

いったん諦めたものの、なにかヒントが無いかと再度このコマを見直す。踏切脇の立て看に「踏切だ 鳴らせ心の 警報機」という五七五の標語が書かれている。

ゴロはいいが、なんだかありふれた標語にも思える。しかしこれ以外に情報はない。藁にもすがる思いでこの標語を検索してみた。すると、ヒット数こそ少ないものの、いくつか情報が出てくる。どうやらこの標語、東急線で使われている標語らしいぞ。

東急線といっても路線は多い。東京に15年ほど住んでいたが、乗ったのはその一部だ。しかし「都内」という括りに比べればずいぶん絞り込まれた。

まず最初に東横線を渋谷駅から多摩川駅まで。そこから多摩川線に乗り換え、鎌田駅まで。見つからない。都電荒川線を調べ始めてからここまで、軽く半日はストリートビューと格闘している。不安になりつつ、次に世田谷線を三軒茶屋からチェック。そして、おお!!

見つけたときは、思わず英雄のように踊ってしまうほどであった。比呂美の高校のモデル校は、この駅の近辺の女子高を捜し、これは多少苦労した程度で見つけることができた。

。。。と、苦労話のように書いたが、本音を言えば、これはずいぶんと楽しい作業であった。ストリートビュー捜しについては、本作品の楽しみ方としては邪道であるが、この第37話には、正道的な範囲でも、さまざまな謎解きやヒントが埋め込まれている。

アイアムアヒーローは「そこまで読者を信頼していいんかい」と突っ込みたくなるほど、説明を省略し、あとは読者が推理し、読み取ってくださいという、チャレンジングなマンガである。別の言い方をすれば、読者を大人として扱っているマンガである。

その中でも、この第37話は特にその要素が強い回と言える。一つ一つ謎をとき、ヒントを確かめつつ読み進める作業は、メモを取りながらポーやクリスティを読むときと同じ愉しさを味あわせてくれる作業だった。作者に感謝である。そして「踏切だ、鳴らせ心の警報機」。

[1コマ目(上段)]
弾倉に弾を込める英雄の指先のアップ。

ハートタッチな回想シーンの頂点から、一気に緊迫した現実に引き戻される。

17

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[2頁見開き]
今回2度目、作者渾身の見開きページである。

左上からの一点透視法的に配された、紗衣、比呂美、加奈子、そして英雄。この構図は、なにか有名絵画を模したものでもあろうか。

紗衣Zは、脱げた比呂美の左のローファーシューズを手に持ち、木立をよじ登ろうとしている。向かい合うように数メートル手前に立ち、紗衣を見る比呂美。その足元に、血だらけでうつ伏せに倒れたままの加奈子。

そして右端。紗衣からは木の陰の位置、紗衣とは反対の向き、つまり読者の方を向いて立つ英雄。銃をさげ、宙を睨んで立つ英雄の姿勢は自然体であり、どこにも力は入っていない。すでに汗はひき、動悸はおさまっている。ただ、覚悟を決めた英雄の表情は厳しく、決意を込めた眼光は鋭い。

陽が翳ったのであろうか、樹海は薄暗く、木立に影もない。

19 [1コマ目(右上)]
紗衣の訴えを読み取ろうと、ひたすら見つめる比呂美。その表情に怖れはない。

[2コマ目(左上)]
左手に比呂美の靴を持ったまま、よじ登り続ける紗衣Z。なにを意図する行為であろうか。

[2コマ目(左上)]
ついに銃を構えた英雄。銃身を上げ、紗衣に狙いを定めようとする。

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