アイアムアヒーローにまつわるエトセトラ

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 第32話 [スピリッツ2010年No.13号 (3月1日発売号)掲載]
0 本作「アイアムアヒーロー」のストーリーは、重層的であり多義的であり、時にトリッキーである。また、直線的に語られるかと思えば、物語は時に迂回し、時に回帰する。

丹念に、執拗に、細かく人物や会話の描写が行われることもあれば、時に極めて大胆にストーリーはカットされ、その一断面だけが描写される。そして読者には、その断面から、物語の前後を推し量る作業が要求される。

この第32話はそうした特徴が最も顕著であり、初めてこの回を開く読者が、登場人物の関係と心理を正確に把握することは困難である。

32話は、普通に初めて読めば、一人の少女が、底意地の悪い級友三人に疎外され、イジメられ、三人による奸計に嵌められた末、深夜の樹海へと追いやられる話であろう。また、少女は、イジメられながらも健気に、前向きに振舞う、強い心の持ち主である。

だが、ストーリーのもっと先、41話まで読み進んだ後、再度この32話を読み返せば、四人の関係や会話の持つ意味は一変する。

少女「早狩比呂美」は、確かに級友にイジメられる立場であった。だがそのイジメは、軽い意地悪といった程度のものではなく、イジメを苦にリストカットに追い込まれるほど苛烈なものであった。

一方、「底意地の悪」く見えた級友三人のうち中心的な人物「沙衣」は、実は懸命に比呂美との距離を縮めようとしている。比呂美の置かれた立場を改善しようと試みている。だが、その沙衣の試みは、続けざまに失敗し、むしろ比呂美を傷つけ、追い込むこととなった。

比呂美は傷ついたが、それ以上に沙衣の心も傷ついたのであった。

樹海へと追いやられた比呂美は、もう一人の主人公、英雄と邂逅することになる深夜の道を歩く。だが、比呂美が歩いているのは生と死の境界線であり、比呂美の脆い心は、常に死を意識しつつ、絶望と希望との間を振幅する。



以下、解説に入る前に、本作の進行順にではなく、時系列に沿ってストーリーを整理し、人間関係をまとめてみる。

まず、紗衣たちのグループによる比呂美へのイジメがあったことは事実であろう。後のストーリーの展開から、沙衣がそのイジメを主導したとは考えにくいが、一方比呂美が「紗衣たちによるイジメ」と強く認識していることから、最低でも沙衣は、自分の取り巻きに寄る比呂美へのイジメを黙認していたであろうし、おそらくはいくばくかは加担もしていたと思われる。

だが、沙衣が最も友として欲していたのは、自分の取り巻きではなく、比呂美であった。

林間学校に来る前日土曜日。沙衣は学校で、思い切ってそのための行動をとり、比呂美との距離を縮めることに成功した。当然、この林間学校で沙衣が望んだのは、さらに比呂美との距離を縮めると同時に、クラスで置かれた比呂美の立場を改善することであっただろう。

しかし、前者はともかく、比呂美と、比呂美をイジメる側であった級友たちとの関係を改善するのは容易ではない。沙衣と異なり、比呂美をイジメる級友たちにとって、比呂美と和解すべき理由は無い。

特に、おそらくは比呂美イジメの首謀者であった可奈子にとっては、自身が沙衣のグループ内ではイジメの対象とされる立場であり、比呂美の「序列」が上がることは受け入れがたい。

また、クラス内での紗衣の地位も決して安泰なものではない。後に明らかになるように、紗衣たちのグループのうちには互いへの反目、嫌悪があり、沙衣が仲間内で中心的な立場にいるのも、その恵まれた容姿と、おそらくは親の影響力などによるものに過ぎないであろう。

沙衣が比呂美に急接近することは、そのパワーバランスを崩し、自らの立場を危うくする行為なのである。

林間学校で沙衣の脳裏にあったのは、パワーバランスを維持しつつ、少しでも比呂美との距離を縮め、比呂美の立場を改善したいという思いであった。

1 女教師に噛まれた沙衣が、病院でその治療を終え、宿舎に戻ってくるところから第32話が始まる。時間は夜の23時頃である。

時系列のページから作中のヒントを繋ぎ合わせると、この感染の流れは、

・「ブスの方の菊池」(比呂美の同級?)が学校近くで傷害事件の被害にあう
 (=ゾンビに噛まれて感染)

・女教師、菊池を見舞いに行って感染

・林間学校中に発症、沙衣に噛み付く

というものであるかもしれない。さらに、翌日日曜日の午前10時前後、比呂美と英雄が、病院(「山梨赤字病院」)からのゾンビ(医者、看護士、患者)の群れに襲われていることから、この女教師が病院内に感染を広げた、という可能性もある。

ただ、病院から帰ってきた教師が「病院混んでて」と語っており、すでに病院は感染者であふれていたようだ。英雄が「うわぁこっちの街も燃えてる」と言ったのが、病院のメートルほど北にある国道139号の「スバルライン入口」交差点で、土曜日21時前後のことである。すでにその時間に、富士吉田市内には感染が蔓延していたのだから、山梨赤字病院には感染者が他にも多数かつぎこまれていた可能性が高そうである。

そう考えると、教師と沙衣、比呂美が、無事に病院から戻ってこられたのはむしろ僥倖であっただろう。
この誤解は結局解けることはなく、このトゲはのちに、さらに峻烈なかたちで比呂美の心に突き刺さることになる。
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